枚方市立田口山小学校にて400字スキットの出前授業を行いましたーー(6月5日掲載記事の続き)

他の人と比べなくていい
さて、田口山小学校での6月4日の実践の続きです。
1コマ目の終了のチャイムが鳴った時点で「できた!」「先生かけました」と知らせてくれる子どもたちは5人ほど。でも、この段階で何も書けていない子がいても大丈夫です。
この時間の最後に子どもたちにはこのように声をかけます。
「1時間目のみんなの姿を見ていると、一人一人が真剣に一生懸命お話を作ろうと考えているのが伝わってきたよ」、「まだ何もかけていなくても、しっかり考えているのがよくわかります」、「必ず書けるから大丈夫だよ」「この世の中にない、自分だけのお話を今一生懸命生み出そうとしているから、人それぞれスピードが違うのはあたり前です。だから、他の人と比べなくていいよ」「思い浮かんだらどんどんお話を進めることができるようになるからね」
すると、顔を上げて子どもたちはうなずきます。
創作は、「勇気のひとこと」から

また、このようにも伝えました。「最初の一言が書けているだけでもすごいことです。自分の中から生み出した言葉なんだから、勇気のひとことですね。必ず書けるよ。だから、周りに書けている人がいたとしても、全く他の人と比べる必要はないんだよ」と重ねて励ましました。
そう言って、いったん授業の終わりの挨拶をして中休みに入りました。
すぐに何人かの子どもたちがやってきて尋ねてきます。「休み時間も書いてもいいですか」この授業を行ったときに、毎回起きる光景です。
頭の中は今、物語の世界が進んでいるところなのでしょう。「気にしないで書いていいよ」と返事をしました。
信頼感を生むさじ加減の大切さ
中休みの間に、「できた!」といって提出してきた5人の子どもたちの作品を下読みし、添削(作者の意図を尊重しつつ、読みやすくするだけです。このさじ加減が信頼感につながります)しました。
2コマ目の後半からは、出来上がった作品を順番に読み聞かせる時間になります。多くの作品は初見で読み聞かせますが、事前に一読できるものがあればできるだけしておきます。
中休みの終わりを告げる予鈴が鳴ると、運動場で遊んでいた児童も自分の席に戻り、待ってくれていました。あいさつの後、2コマ目の授業です。
2コマ目は、バランスよくファシリテートする時間

先ほど目を通した作品は、この場で返却をします。その上で全員に、こう伝えます。
「書けた人は、他の人に伝わる内容かどうか、台詞のやりとりだけで頭の中に絵が浮かぶかどうかを、初めて見たつもりになってもう一度読み直してみてください。そして必要があれば台詞を足したり削ったり修正して、より良い、面白い作品にしましょう」
その後、仕上げをして確認も終え、完成したという人には提出をさせて、
「心のひとことシート」を手渡し、新しい課題を与えます。
心のひとことシート

この取組みは、あくまでも作品を作り終えた人の余剰の時間として行うもので、完成を目指すものではなく、応用編として試行させるものです。
このシートには、4つの記入欄を設けています。
1)自分が他の人から言われて、心に残ったひと言。
2)そのひと言を言われたのはいつだったか。
3)それはどこで言われたことか。
4)誰に言われたひと言なのか。
自分の心が動いた瞬間を、台詞とともに、その時、場、人物を整理してまとめておくのです。
実は心が動いたひと言は、実際の生活の場の主人公としての自分の変容の場面といえます。
その場面を400字スキットにまとめる事は可能だと考え取り組んでいます。実際にこのシートに書いたことをもとに作品を書かせると、心が動いたひと言を山場の台詞にすることになります。執筆は、その前後の出来事ややりとりを整える作業になるのです。作品は、主人公の変容の場面が具体的にイメージできる形で表現される形となっていきます。
一番伝えたいことを伝えやすい形に創作
400字スキットの手法は、「こころのひとことシート」を活用すると、自分の変容をわかりやすく伝える手段としての創作ーー自己開示のプレゼンテーションとしての役割を担わせることもできます。
自分のことをそのまま表現しても、その真意が伝わらないことがあります。その一番伝えたいことを伝えやすい形で表現するというのが創作の1つの意義として存在すると考えています。これは、そんな体験ができる取り組みにもなっています。
ただ、この取り組みには、取り組む児童が400字スキットの手法に慣れる必要があり、この場では応用編として2作目に取り組む際の課題として試行的におこないます。
2コマ目開始後約20分ほどで執筆を終了します。この段階でまだ作品が完成していなくても構いません。しっかり自分の世界を描いていることを褒め、全員の作品を回収します。
全員の自己肯定感を高める発表の時間

いよいよ子どもたちの作品をすべて読み聞かせます。400字スキットの取組は今回初めてなので、1回目は作品を教師が読み聞かせます。これは2回目以降の取り組みをイメージしやすいようにするためのものです。2回目以降は二人一組になるなど子どもたちが協働して作品を発表する取組になります。
ほめ方のコツ ―― 頭の中に浮かんだ絵を肯定的に伝える
ところで、褒め方は、「読んだときに自分の頭の中に浮かんだままの絵を肯定的に伝える」ことが基本です。
400字スキットは、台詞だけのやりとりで表現されています。台詞と台詞の間には必ず隙間があります。その隙間を人は自然に想像し、対話している場面を頭の中で創り出します。その想像の絵の中には、その人物のいる時間や場所の状況、景色、その人物の表情、服装、身振り、声の大きさ、姿勢などが現れているはずです。読み取りながらそういう観点で作品のイメージを膨らませます。
指導する立場の者としてのこのような思考は、取組の経験を重ねる中で次第に上手く反応できるようになってくると感じています。この取組は、教師にとって目の前に起こった出来事を深く理解するための対応力を磨くことにもなるのです。
指導者としての力を鍛える場となる400字スキット

この後の発表の際には、初見で作品を読む場面がどんどん出てきます。その時に、「読んだときの、自分の頭の中に浮かんだそのままの絵を肯定的に伝える」ための想像力がフル回転になった状態に指導者は追い込まれます。この追い込まれた状況の中で、さらに振り返りの中で現れる子どもたちの発言に肯定的な価値づけをするのです。
追い込まれつつファシリテートするうちに、それが不自然なものではなく、説得力のあるものになっていることを感じる瞬間も出てきます。それが指導者としての自分が一歩見方を広げたり深めたりすることのできた(成長できた)と感じる瞬間です。
読み聞かせとフィードバックは、コンパクトに
この授業の後半で行われる発表と、作品ごとのフィードバックは、子どもたちにわかりやすいように、作品ごとに短時間でやりとりを続けていくことが大事です。
3時間目の後半になって、「先生、あと15分しかないけど」と、全員分を鑑賞しきれるか心配してくれる子どもも出てきました。作品の中には振り返りに盛り上がって時間をかけてしまったものがいくつかあったのです。そこで1作品について2人だけ発言してもらうことにして残りを進めました。
しかし、2作品を時間を過ぎて振り返ることになり、担任の先生や児童のみなさんのご好意に甘え、そのまま少し時間をいただき、最後まで発表を終えることができました。
ご協力ありがとうございました。
心理的安全性のある学級をつくる

このように、子どもたちの作品を読み聞かせて、その感想や印象などを自由に子どもに語らせる場面を創ること(価値づけする時間を作ること)は、心理的安全性のある関係を創ることにもつながっています。
枚方市立田口山小学校では、昨日 6月9日(月)にも3年生のもう一つの学級で出前授業を行いました。
※この記事には昨日(6月9日)の写真も掲載しています。
授業を終えるあいさつの時の子どもたちの表情には、自分が注目される瞬間を経験した充実感のような明るさがありました。
個性的な作品がたくさん共有できました。後日、改めて紹介します。
投稿者プロフィール

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一般社団法人ここで 代表理事。
1965年生まれ。出版社勤務等を経て1992年より公立中学校社会科教諭。2006年夏に大阪府中学校演劇協会と出会い、創作劇活動の教育的効果に魅力を感じ研究を始める。
枚方市立西長尾小学校校長就任後は、「対話力」の向上に高い効果をもたらす「発達段階に合った創作劇活動カリキュラム」を構築し、2023年度から全学年で実施。心理的安全性のある教育環境づくりへ尽力。2025年3月退職後も教育支援活動を継続。
趣味は映画鑑賞、ピアノ練習、雑談、自作カレーづくり。